◇米国に迎合するしかない野田政権 )田英夫とジャーナリストの会 【直言極言】Ver1
▼財務省に政治家の魂を売った
D 野田政権が発足して1ヶ月半になるが、その評価から始めようか。
A 当面の政策課題は5つあると思う。①東日本大震災からの復興 ②原発事故を受けてのエネルギー対策 ③普天間基地移転問題 ④TPP ⑤景気対策だ。ところが、野田政権はどのような舵取りをしようとしているのか、さっぱりわからない。国交相の名前もすぐ思い出せないような印象の薄い閣僚布陣で存在感も薄い。先行き不安の情勢を生み出している。
B 民主党政権が発足した2年前に比べると、マニフェストは放り出したし、政権の正統性がもはや失われている。政策の大眼目だった政治主導はうやむやになり野田新首相は官僚依存、それも財務省主導内閣に甘んじようという決断をしたのかのようにみえる。自民党政権がそうだったように、官僚に任せれば大臣なんか誰だって務まる。財務省の操り人形になった野田内閣が、国民の側に立って施策を進めるかどうかは疑わしい限りだ。
A 操り人形と言うよりは野田は財務省に政治家の魂を売ったんだ。大久保利通以来の官僚制の呪縛はまだ解けていない。結局のところ、日本で最良の頭脳と最強の組織を持っているのは官僚機構だ。それが事実として再認識されてしまっただけだ。だからと言って、自民党政権時代に日本が逆戻りするとは思わない。
D 私見だが、野田はなかなかやりおるなと高く評価しているんだ。鳩山、菅は全くダメだったが、野田はそれを他山の石として小沢とケンカするのは得策ではないと決断して、輿石を幹事長にもってくることで党内融和を図った。野田は代表選でのドジョウ発言、さらに輿石幹事長人事で、鳩山・菅のアンチテーゼをさりげなく提出して、政権存続のムードを演出した点は政治家の能力として評価して当然ではないか。前例としては自民党時代の小渕がいる。小渕は最初、アホかとバカにされたが、時がたつにつれて、なかなかやるじゃないかと評価が変わった。急死してしまったがね。中曽根も「野田は長期政権になる」と喜んでいるようだし、野田は相当な政治的英知の持ち主だと思う。何もやっていないように見えるが、まだ1ヶ月半だよ。
B しかし、党内融和を優先した小粒な閣僚人事が将来、政権の足を引っ張ることになりはしないか。最も危ういのはマルチ商法業界とつながりが深い山岡賢次を国家公安委員長兼消費者行政担当相にしたことだ。安住財務相のチャチだね。
E 人事による党内融和と内閣としての政策の話とは別だよ。確かに菅は脱小沢というくだらない党内政策にこだわった揚げ句、内閣不信任案を否決する多数をなんとか確保するため、代議士会で辞任表明せざるを得なくなった。この愚を繰り返さないために党内融和策を取ったのは当然だ。しかし、政策課題、具体的には復興財源問題、TPPの問題で党内は真っ二つに割れている。しかもこうした政策について、野田の考えはあいまいで哲学が見えて来ない。
D 細川護煕が野田と小沢を引き合わせたことをしゃべったが、政治家としてしばらく黙っておくべきことを洩らしている。官僚の中には、長く続く政治家の質の低下、劣化の典型的な例だと酷評する声もある。
F 野田は松下政経塾の一期生だが、松下政経塾の基本理念は政財界のための人材育成だ。米国寄り、大資本寄りは当然の話。野田が組閣工作に入る前に経団連を訪ねると、迎えた米倉経団連会長が相好をめちゃくちゃに崩して野田と握手した場面が象徴的だ。TPP加入の問題でも、最終的には財界の求める政策を打ち出すことは間違いない。お里が知れているよ。
▼論議する時間を与えないTPP
A TPPの問題で言えば、基本的には参加する以外のオプションはないと思う。TPPに弱小国が加盟しても日本が入らないのでは、アメリカにとって意味がない。突き詰めれば、TPPの実質はアメリカとのFTA(自由貿易協定)なんだ。中国、韓国とFTAを前倒しでやろうとしているのに、同盟国のアメリカと結ばないというのは外交的にも説明がつかない。ともあれ来年の6月を期限として結論を出さねばならない。
B アメリカは日本に対して強く言えない状況だ。強く出ると「例外なき自由化」という原則を崩して、なんらかの条件を飲まざるを得なくなる。だからTPPに逡巡する日本への当て付けに韓国の李明博大統領を異例の国賓待遇で出迎えてFTAを結ぶ段取りを協議したのだ。実現すると韓国は自国の家電製品を関税なしで米国に輸出できるようになるのに対し、日本製品は関税をかけられて大市場のアメリカで売れなくなることは間違いない。
C TPPの狙いはアメリカの経済再生で、参加したら日本の経済は完全にアメリカに支配される。アメリカの餌食になり、すべて食い荒らされることになるよ。電機製品もTPPに参加したからといって爆発的に売れるわけではない。かつてのソニーのウォークマンのような製品が今の日本にあるわけではない。そればかりではない。食料不足の時代が間近に迫っているのに、TPPに参加すると食料自給率は40%から14%まで下がるという試算がある。オバマ大統領は国内向けにTPPが功を奏せば数十万人の雇用が生まれると宣伝している。日本の若者たちの職場はさらに狭まり、失業者は増大する。TPPに参加したら日本は完全にダメになると言っていいのではないか。
D 日本経済が孤立し、内需だけで成長するわけがない。やはり対外輸出でカネを稼がねば今の生活水準は維持できないし、財政赤字の縮小どころの騒ぎではあるまい。製造業の海外移転に拍車がかかれば、若者に職を与えることもできない。国内市場に関税という壁を維持したまま、対外経済進出しようというような虫の良い考えはとてもできないよ。被害者意識ではなく、今後の世界経済の大きな潮流の中で日本がどうしたらサバイバルできるかという発想が必要だ。
F TPPシステムは日本という国の社会・経済構造を根底から変えることになるのに、野田政権は国民に対して何の情報も出さないまま、議論をする時間を与えず、参加を決めようとしているのが問題だ。メディアは相変わらず態度保留して傍観的な姿勢を崩していないが、国民は黙っていないと思う。
▼与野党とも根っこは同じ
G 野党の自民党も民主党と根っこで同じだから、TPPに反対する国民の声は政治に反映されそうにない。野田は財務大臣だった時、靖国神社に合祀されているA級戦犯について戦争犯罪人ではないという見解を明らかにしていたが、党代表に就任したとたん、「政府の立場としては答弁書を踏まえて対応したい」と態度を豹変させた。この間の参院予算委員会の野党・自民党の攻め方も異常だったが、自民党最右翼に位置する稲田朋美が「根っこは共通なのに、首相になったとたん態度を保留するのはけしからん」と噛みついた。つまり自民党も民主党も「根っこは同じ」だから、国民にとってはそれ以外の選択肢が閉ざされたことになる。
B 2大政党制を無理やりでっち上げるために1996年から始まった小選挙区制が諸悪の根源だ。これを変えないことには国民の声が届かない所で政治が進行することになる。小選挙区制を変えないとますます政治は国民から乖離していく。
A 最高裁が勧告した定数是正は次の選挙で具体化されるだろうが、小選挙区制の改変は容易ではない。推進役を果たした小沢一郎を筆頭に、小選挙区制で当選した300人近くの議員は改正に抵抗するだろう。
E ドイツの議会も小選挙区制と比例代表制でやっている。あの国は州権が強大で、中央政府の権限が限られている。小選挙区制は地方自治の拡大とセットになっているはずなのに、日本はそうなっていない。小選挙区制の廃止よりも地方分権の徹底化が先ではないか。
▼官僚主導は対米追随
C 野田政権ははたして官僚主導、官僚依存で転がっていくのだろうか。たとえば、ウィキリークスで暴露された例の話だ。薮中三十二外務事務次官はアメリカ側に対してオバマ大統領の広島訪問は時期尚早だと忠告した。日本人の国民感情から言えば、原爆を落とした国の元首が広島、長崎を訪れることは一日も早く実現してほしいはずなのに、薮中は逆の立場に立った。日本の官僚がアメリカの番頭に成り下がっていることを象徴する出来事だ。この問題で日本政府は一貫して「米政府の判断」と言明してきたが、裏では広島訪問を控えるよう働きかけていた。
D 結局、自民党から民主党に政権交代しても政治家主導が不可能であることが証明されたに過ぎない。事務次官会議を廃止し、副大臣、政務官を政府の中に入れ、省庁事務次官会議を廃止してみたけれど何のメリットも生まれなかった。政治家が選挙区を気にしながら勉強する程度では、政策問題に精通することなど出来っこないのさ。
A アメリカの議会のように国政調査権をバックアップするような調査・研究機能が整備されていないし、透明性の高い民間シンクタンクもない現状では、やはり役人のご進講に頼るほかないのだろうな。
B 野田は財務官僚に取り込まれたというけれどそれは一方的な判断だ。野田はリアリストで、財務副大臣になってから役人に聞きながら勉強したんだと思う。消費税増税に傾いたが、それだから官僚に取り込まれたというのはおかしい。財政再建の糸口だけでも見つけたいという政治家としても信念だってあると思う。官僚といえども政治家の意見を言うよく聞いて、一生懸命に働くのは認めるべきだという発想で、小沢や菅のように「最初に排除ありき」ではないだけだよ。
B 日本の政治における官僚主導を言い換えれば「対米追随」だ。民主党政権は鳩山由紀夫が首相になると官僚依存からの脱却と称して「東アジア共同体」とか「アジア共通通貨」とかぶち上げたが、それは米、中、日の等辺三角形を構築しようという発想というか、願望だった。アメリカ離れして少しでも自主性を確保しようとしたのだが、アメリカは賛成するわけがない。普天間基地の移転問題にせよ、中国が覇権国家として登場して米国と虚々実々の暗闘を展開しているというのに、鳩山は国際的な権力関係に対してあまりに幼稚だった。アメリカの顔色を敏感に察知した官僚たちは自分たちの利害関係も絡んで、鳩山、菅の両政権に「知らん顔」の非協力の態度をとっただけのことだ。つまり野田政権が政治主導を実質的に棚上げして官僚依存に立ち戻るのは、優秀な官僚をうまく使いたいというだけではなく、自民党時代のような対米追随に逆戻りするという暗黙のシグナルだ。いずれ明瞭になるが、TPPも沖縄問題もアメリカの要求を丸飲みする方針を打ち出すはずだ。残念だが、日本に独立国家としての外交は当分、失われたままだね。
▼官僚政治とは何か
G その事実認識はどうかね。アメリカ追随は事実だけれど、これまでの自民党政権が日米安保条約に基づく米国との同盟関係を構築し、強化し、小泉政権に至ってはアメリカの対テロ戦争という世界戦略に積極的に加担した。日本がアメリカ追随戦略を選択しちゃったんだ。
F 民主党政権はアンチテーゼをひょろひょろしながらアンチテーゼを打ち出したのだが、それが官僚からの脱却と政治主導だったんだ。
E その集約的表現が2年前の選挙で支持された「マニフェスト」だったが、2年間でその中身を自ら否定せざるを得なくなった。これではもはや政権としての正統性は失われているも同然だ。あのマニフェストに賛同して民主党に投票した人がたくさんいるわけで、その意味では野田政権が存続すること自体がおかしい。
D 首相として消費税と相討ちになった竹下登に「政治とは何か」という著作があるが、そこで描かれているのは官僚に逆らわず、官僚を手なずけていく政治手法なんだ。日本政治の要諦、政治家の奥義は官僚といかに調和していくかに尽きるわけで、例えば局長級以上の奥さんの誕生日まで克明にメモして贈り物を欠かさないとかね。
A 保守政治家といえども、官僚を使いこなし切ったのは田中角栄だけだった。もちろん官僚機構と人事を熟知し、操縦したのだが、そればかりではない。角栄が抱いていたある種の資源ナショナリズムが官僚のもつ国益観と交錯するものがあり、市場とエネルギーを独自に確保しようという彼の情熱に官僚が動かされたと思うね。その結果、ロッキード事件がアメリカ発で持ち上がり、角栄は政治生命だけでなく、肉体的にも燃え尽きてしまった。アメリカの隠微な支配にしてやられたことになる。裏付けになる証拠を持っているわけではないが、アメリカという巨大勢力とグルになって国家を操ってきたのが戦後の官僚政治だと思う。
C 公務員給与を削減すべしとか枝葉の問題で官僚はけしからんという話が横行しているが、ちょっと違うのではないか。官僚は国民の負託は受けるわけではないのだから議会制民主主義にかかわる問題なんだよ。そういういかがわしい存在が国会議員や閣僚を操っていくのでは、制度の趣旨が揺らいでくる。
C 小沢と田中角栄を同列に扱うのはどうかとは思うが、アメリカはある時点から小沢を反米的な存在とみなすようになったと思う。あくまでも直感なんだが、シーファー駐日米大使がインド洋での自衛隊の給油活動を継続してくれと要請に来た際、小沢はカメラの砲列のなかで公然と拒否した。その姿を見て「これはアメリカにやられるな」と思ったね。
▼政治生命をかけた小沢の検察批判
B 米国の陰謀説がくすぶっているが、小沢の裁判で最も分からないのは、二回にわたって検察が不起訴にした小沢を強制起訴議決した第五検察審査会の動きだ。この審査会の構成メンバーがどういう人々であって、告発した市民団体がどんな団体で、そのなかの何人が告発したのかも判然としない。メディアも真相の追及を怠っている。疑念が残ったままだ。
D 第一回公判後、小沢が出した声明は自身の政治生命をかけた最後の検察批判だという感じがしたね。権力者が使えない言葉に満ちていて、それを言ったらお終いだと思った。
E 東京在住のオランダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレンが著書「誰が小沢一郎を殺すのか 画策者なき陰謀」(角川書店)の中で、「日本の権力構造で展開される小沢いじめは酷すぎる。これを黙認する日本のメディアも含めてけしからん」と主張したが、小沢の声明はその本を引用して検察を批判した。ウォルフレンは反米的で、日本で起きる問題はすべてアメリカの謀略で起きていると説明、分かりやすいから日本語訳は売れている。アメリカ大使館はウォルフレンを憎しみの対象にしている。小沢も米政府、駐日米大使館から敵視されており、彼がウォルフレンを直接引用したのは「俺は反米の闘いをやっているんだ」というメッセージを出したように受け止められてもおかしくはない。
A 小沢の行動は政治家としては自爆行為だ。裁判で彼は先がないと読んでいる。ただ分からないのは、自民党の幹事長までやった小沢が、なぜそんなにまで変身してしまったんだろうかという問題だ。
(注) ウォルフレン(1941年生まれ)はオランダの一流紙、NRCハンデルスブラットの極東特派員を長く務め、1989年に公刊した「日本 権力構造の謎」で有名になった。日本の権力構造が責任中枢をあいまいにしていることを指摘、官僚主導の体制を批判した。その文脈から小沢一郎を高く評価してきたことは知られている。米国の親日派も厳しく批判する。昨年12月、日本記者クラブで講演、ブッシュ政権以降の米国が日本を軽視どころか、蔑視していることを指摘した。
▼嫌われた小沢の国連中心主義
G かつては小沢も訪米を重ねて、対米蜜月時代もあった。モートローラの日本進出を支援した政治力を高く評価され、当時のアマコスト駐日大使が「日本の政治家で話ができるのは小沢だけだ」と本国に報告したほどだ。父ブッシュ時代には湾岸戦争協力の前面に立った。しかし、イラク戦争では国連中心主義を打ち出し、そこからアメリカに嫌われるようになったのではないか。アルカイダのビン・ラディンだって当初、ブッシュとの関係が密で、アフガニスタン経由で石油パイプラインを引くプロジェクトに協力していたという話が伝わっている。それが何かの弾みで敵対関係になったのと似ているような気がする。
F アメリカは小沢よりも小泉の方が使いやすいと判断したのだろう。小泉政権はPKO派兵法を皮切りに日米安保共同宣言、日米新ガイドライン、周辺事態法、テロ特措法、有事関連3法と有事関連7法、イラク特措法、緊急事態基本法などを次々に成立させ、日本は軍事的に完全にアメリカに隷属してしまった。小沢はそこまで踏み切れず、アメリカに切られたのではないか。
E 鳩山首相が普天間基地移転問題で「最低でも県外」と発言したが、小沢はアメリカの怖さを百も承知で支持した。あの段階で小沢はアメリカの軍事再編を否定していた。
D 小沢はコチコチの法律万能主義で頭は思いの外固い。右寄りだから改憲派かというと、それは違う。彼が書いた「日本改造論」でも、憲法9条は変えなくてよろしいと言っている。その理屈は、憲法の前文を読めば、国連の決議に従うならば海外派兵でドンパチもできるというのだ。基本姿勢は今も変わっていないと思うよ。
C キャンベル米国務次官補が民主党幹事長だった小沢に「あなたは何百人も国会議員を引き連れて中国に行っています。アメリカにも連れてきてください」と言ったら、「オバマ大統領に会わせてくれるなら行きます」と言って、アメリカのご機嫌を損ねてしまった。
▼身に染みて感じる司法制度の怖さ
B 今回の小沢自身と秘書3人の裁判を通じて、司法制度の怖さを身にしみて感じた。秘書の裁判では、供述調書がなくても裁判官の推認一つで有罪判決が書かれてしまうということ。裁判官は上役の示唆や権力の動向に弱いのだ。
まだある。沖縄返還をめぐって日米両政府が交わした密約文書の開示を求めた情報公開訴訟の控訴審判決では、東京高裁は密約文書を全面開示するよう命じた一審判決を破棄した。裁判官の推断だけで「文書が焼却されたのは当然だ」みたいなことを言って、焼却した責任を問わないんだ。これでは真面目に訴えるのはばかげているということになる。最高裁事務局が人事権を握って采配しているが、法務省の役人が裁判官に押し込まれたりする。つまり裁判官は検察と一体みたいなもので、奇妙な法曹一元制が隠れている。
A 小沢の資金問題を担当する東京地裁の大善文男裁判長はエリートコースを歩んでいる人物だから有罪判決を出すだろうという見方が既に出回っているよ。なにしろ一度起訴されたらほとんどが有罪というのが日本の裁判所だ。三人の秘書を有罪にした東京地裁の登石郁郎裁判官は判検交流で3年間も法務省刑事局に勤務した経歴の持ち主だった。検察提出の調書を不採用にして弁護側を油断させ、最後は証拠に基づかない推認で3人を有罪にした。検察の闇は暴かれ始めたが、裁判所の闇は手つかずのままと言ってよい。
E 刑事被告人の元外務省ノンキャリ職員、佐藤優が「国策捜査」という言葉を創出したが、原発など政財界が一致して推進している国策にとして異を唱えたら、一定の地位にあろうとどういう目に遭うのかを、前の福島県知事、佐藤栄佐久が告発している。自民党宏池会所属の参議院議員だった佐藤だが、知事になってから原発の危険を覚って反対を唱えた。その結果、検察に汚職容疑で逮捕され、有罪判決を受けた。現在、最高裁に上告中だが、彼は知事を人気途中で辞任した直後に逮捕され、社会的にも政治的にも完全に抹殺されてしまった。しかも、地裁、高裁有罪判決の決め手になったのが水谷建設の偽証言なんだ。国策に反対すると検察、裁判所が一体になって追い落としにかかってくる怖さは戦前の日本と変わらないんではないか。そいう認識をメディアが持たないのも戦前とそっくりだ。
B ギリシャの財政危機に端を発したユーロ不安と欧州の景気冷え込みだが、アングロサクソンの陰謀説というのがある。米英両国は国債を外国で買ってもらっているが、経済の先行き不安から国債が売れなくなってきた。欧州諸国の投資家に買ってもらうには、ユーロに対するドルの相対的信用が高くなる必要がある。それでギリシャをはじめスペイン、イタリア、アイルランドなどの財政危機を大げさに宣伝したと言うんだ。もっとも外国政府債が債務不能に陥った場合に支払いを金融機関が肩代わりする金融派生商品のクレジット・デフォールト・スワップス(CDS)をめぐる投機を米ゴールドマン・サックスが仕掛けたという説もある。いずれにせよ米ドルの地位低下を物語る話だ。
▼崩れ始めた権力構造
F 最後に原発問題だが、政府、特に経産省と電力会社との関係についてはどうだろうか。枝野が何とか頑張っている感じがするのだが。
C 九州電力・玄海原発再稼働でのやらせメールについて最終報告を発表した真部社長の記者会見はお粗末というか、開いた口がふさがらなかった。九電が自ら設置した第三社委員会の最終報告を完全に無視するという開き直を演じたばかりか、いったん提出した辞表を撤回して居座るという感覚は、一体何なんだろう。
B ともあれ、これで玄海原発の再稼働は難しくなったね。世論の納得は得られないし、原発推進派にとっても致命的な打撃になったろう。
E 「原子力村」が世間の常識が完全に通用しない世界であることがあらためて実証された感じだ。東電も九電も社長は会長の小間使いで、本当の実験を握っているのは会長という院政構造であることも分かった。電力会社からすれば、経産省官僚は同じ穴のムジナだし、メディアもカネで飼いならしているから怖くない。国策担当として検察、裁判所にも守られている。しかも独占企業の立場を利用して世界一高い電力料金を設定し、金権でやりたい放題のことをやってきたんだ。
A 政界、官界、財界という日本エスタブリッシュメントの上部構造がもたれ合いの精神的風土(a culture of collusion)を長年培ってきたことが明るみに出た。国策という名目で官僚と企業が癒着し、国民の目をごまかしてきたのだ。佐賀県知事とやらもそうした風土で育った男だろうし、反省なんかしないはずだ。
D その権力構造が崩れ始めている。地方自治体の首長と電力会社が一体となって推進してきた原発体制に今回の震災と事故でヒビが入ったんだ。学界、メディアまで巻き込んでウソとやらせで塗り固めてきた「安全神話」が通用しなくなってきた。そのことに九電幹部は気がついていない。
A 気が付いていても、原発反対勢力が弱いからそのうち有耶無耶になるとタカをくくっているのじゃないか。
E チュニジアで始まった「アラブの春」の民衆蜂起がエジプト、リビア、シリアと広がり、専制的な支配者を追放した。その動きがアメリカに飛び火し、若者や失業者が国際金融の中心地、ウォール街を占拠して抗議する自発的な運動が高まっている。米政府はリーマン・ショック以来、公的資金を注ぎ込んで破綻した金融機関を助けてきたが、その政策は実は国民の利益のためではなく、政府と大企業の癒着の産物ではないかという批判なのだ。一部の人間に富が集中し、所得格差は拡大する一方。若者の失業率が高まっているのに、オバマ政権は何一つ解決策を打ち出せないでいる。そうした不満が爆発した。ところが日本では東電を囲むデモも起きない。
J いや、明治公園で開かれた「さようなら原発5万人集会」には6万人が集まった。ところが翌日の朝刊を開いて驚いた。まともに取り上げたのは東京新聞と毎日新聞だけで、不当に軽視した新聞が多かった。特に朝日は酷く、一面に集会の写真と簡単な写真説明程度の記事を載せただけ。朝日の新聞週間特集記事を点検したら、「限られた情報をもとに原発事故の深刻さや危険性をどう伝えるか、記者は悩み続けている」と言った優等生的な弁明トーンが強く、「脱原発を支持するのか、しないのかの態度表明や検討は一切なし。体制べったりとしか思えない紙面を毎日提供し、「朝日よ。お前もか」と言いたいね。
E 脱原発は結構だが、ニューヨーク・タイムズによると世界中の原子炉の金属部分は日本製鋼所(NSW)1社の技術に依存しているそうだ。日本は脱原発だけど、世界中で原発建設には協力しますでは通らない。議論を国際的視野で深める必要があると思う。
(了)



